国立大学法人京都大学フィールド科学教育研究センター芦生研究林
KDDI株式会社
国立大学法人京都大学フィールド科学教育研究センター芦生研究林 (所在地: 京都府南丹市、林長: 石原正恵、以下 芦生研究林) とKDDI株式会社 (本社: 東京都千代田区、代表取締役社長: 髙橋 誠、以下 KDDI) は、芦生研究林の生物多様性や生態系の保全・教育・研究の促進に寄与することを目的に、包括連携協定 (以下 本協定) を締結します。
1990年代の後半から、芦生研究林の貴重な植生が、個体数が増えたニホンジカの採食によって著しく衰退してしまいました。植物だけではなく、昆虫や魚などの様々な生き物や、土壌、河川にも影響がでており、生態系の改変が進み危機的状況となっています。
両者は本協定を通じて、芦生研究林の生態系や生物多様性の保全、芦生研究林に関する教育研究活動・普及啓発活動、DXや通信技術などを用いた芦生研究林に係る活動の発展高度化に取り組みます。
■本協定の内容
1. 協定の名称
芦生研究林の生物多様性等の保全・教育・研究の促進に向けた包括連携協定書
2. 協定締結日
2023年3月9日
3. 協定締結の目的
京都大学芦生研究林の生物多様性や生態系の保全・教育・研究の促進のため
4. 連携事項
主に以下分野について、連携し協働します。
- 芦生研究林の生態系や生物多様性の保全
- 芦生研究林に関する教育研究活動、普及啓発活動
- DXや通信技術などを用いた芦生研究林に係る諸活動の発展高度化
<別紙>
■本協定で連携・協働していく主な連携事例 (過去実績を含む)
1. 舞鶴工業高等専門学校生と共同制作したVR動画コンテンツ
芦生研究林では京都大学ならびに国内外の大学の教育や研究が行われています (約3,400人/年)。しかし、新型コロナウイルス感染症の蔓延により授業はオンライン中心となり、教育研究利用者数は半減し、デジタル森林教育コンテンツの開発を進める必要がありました。さらに、1990年代の後半から、芦生研究林の貴重な植生が、個体数が増えたニホンジカの過採食によって著しく衰退し、生物多様性の劣化、生態系の改変が進みました。様々な保全活動を関係機関と連携して進めてきましたが、回復にはほど遠く、広く一般の方に芦生研究林基金へのご寄付を呼びかけ保全を加速させていく必要があります。また、近畿有数の原生的な森林として有名で、年間約4,000~7,000人の一般の方にハイキングやガイドツアーを通じてご利用いただいています。しかし、近年は若者への認知度が低下しており、さらに新型コロナウイルス感染症によりガイドツアーの利用者数も伸び悩んでいました。そこで、オンラインでも活用できる教材として、また芦生研究林の魅力をPRし、研究林の自然をバーチャル体験して頂ける3本のVR動画を制作しました。
京都大学芦生研究林監修の元、オンライン制作会議等、KDDIによる各種制作上のサポートを行い、舞鶴工業高等専門学校に所属するHANDMADE部員 (学生) が制作を担当しました。
舞鶴工業高等専門学校とKDDIは、2018年12月19日に、舞鶴市を加えた3者で地域活性化を目的とした連携に関する協定を締結しています。
その縁で、KDDIが、京都大学芦生研究林と舞鶴工業高等専門学校を引き合わせ、この度の3者連携が成立しました。
3者は、2021年10月にガイドツアーにいざなう第一作目のVR動画を完成させ、2022年度は「シカの食害による植物の衰退」、「四季の風景と動植物」のタイトルの2本のVR動画を完成させました。
<オンライン制作会議の様子>
<芦生研究林に訪問し撮影を行う舞鶴高専学生たち>
<VR動画「四季の魅力編」>
2. 京都大学創立125周年記念アカデミックマルシェ
2022年6月18日にロームシアター京都において、「京都大学創立125周年記念アカデミックマルシェ」が開催され、芦生研究林ブースにて制作した360度VR動画3本 (3分半/本) を、初お披露目致しました。
当ブースでは、VR動画を、KDDIの「VR同時視聴システム」を用いて提供し、6時間半で128名のお客さまに体験いただきました。最大1時間半待ちの大盛況で、お子様も大喜びでVRを体験いただきました。
《京都大学創立125周年記念アカデミックマルシェの様子》
<森林VRに歓声をあげる子どもたち>
<芦生研究林ブースにおける舞鶴高専・京大芦生研究林・KDDI関係者>
3. 芦生研究林におけるKDDI社員有志によるボランティア活動
KDDIは、2021年に続き、芦生研究林ボランティア活動を、2022年9月3日に行いました。
2022年は、2021年より規模を拡充し、総勢30名のKDDI社員有志とその家族での実施となりました。2021年は外来植物の除去を中心としましたが、2022年は主にシカ採食から植生を保護する植生保護柵の修繕を行いました。参加した社員は、ボランティア活動に充実感を感じるとともに、大自然を堪能しました。
《第2回 芦生研究林保全ボランティア活動の様子》
<張り替えた植生保護柵の前での集合写真>
<新しい植生保護柵を張り替える作業>
4. LPWA実証実験 (第1期/第2期 (予定))
第1期は、芦生研究林、KDDIに加え、KDDIグループのKDDIエンジニアリング株式会社 (以下、KDDIエンジニアリング) を加え、2022年8月~同年11月末まで、三者でLPWA (Low Power Wide Area; 低消費電力で長距離のデータ通信を可能とする無線通信技術) の実証実験を行いました。LPWA機器は、KDDIとKDDIエンジニアリングが協力して用意し、芦生研究林内に設置しました。
実証した内容は、携帯電話圏外である山林エリアにおけるLPWAの有益性、IoT鳥獣対策通知システムによるシカの有害駆除 (許可捕獲) と、研究者や芦生研究林の教職員が入山時にテキスト通信ができる機器 (以下、コミュニケーションツール) の利用です。
実証結果としては、LPWAによる通信システムが確立されたこと、箱罠でシカが捕獲され、その情報がタイムリーに把握できたこと、コミュニケーションツールを用いて林内通信が可能であることが確認され、その有効性が確認できました。しかし改善すべき点も見つかったため、2023年度も実証第2期を行う予定です。なお、シカの捕獲については、南丹市ならびに南丹市猟友会にご協力いただきました。
5. 芦生研究林内における無線通信を活用した気象データの観測 (検討中)
今後の取り組みとして、芦生研究林内の観測データのリアルタイム把握や研究の効率化を目指して、ICTシステム構築を目指していきます。例えば、芦生研究林事務所周辺は、au LTE圏内なので、事務所周辺の観測データをau LTE網を活用して配信したり、au LTE圏外エリアの山中の気象データを、LPWAを活用して送信集積する等、KDDIエンジニアリングを始めKDDIグループのアセットを活用して検討していきます。
芦生研究林とKDDIは、芦生研究林における研究・観測・教育の更なる発展をすすめ、森林保全と持続的社会の創出に両者協働して貢献していきます。
■京都大学芦生研究林について
本研究林は、1921年、学術研究及び実地演習を目的として、旧知井村の九ヶ字共有林の一部に99年間の地上権を設定し、芦生演習林と称したことに始まります。2003年4月、フィールド科学教育研究センターの発足に伴い、「京都大学フィールド科学教育研究センター 森林ステーション・芦生研究林」と改称されました。2020年4月に新しく30年間の地上権契約を結びました。
京都市の北約35km、福井県と滋賀県に接する京都府北東部、由良川の源流域に位置し、面積は約4200ha (東京ドーム898個分相当) です。
近畿地方有数の面積の原生的なブナ林が残り、生物多様性の保全の面からも非常に重要かつ貴重な地域です。2016年に指定された京都丹波高原国定公園のなかでも特に保護すべき地域と指定されています。1000種 (変種など含む) を超える維管束植物が記録されており、そのうち約20%は全国あるいは京都府下で絶滅が危惧される種です。ツキノワグマ、カモシカなどの大型哺乳類を始め、ムササビなどの小型哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、昆虫など多数棲息しています。アシウアザミ、アシウテンナンショウなど新種・新変種として芦生研究林で初めて記載された種は58種に上ります。近年も、2010年に土壌動物のアシュウハヤシワラジムシという新種が発見され、2019年に着生ランのフガクスズムシソウが北近畿で初めて確認されました。
年間約3,400人の学生や研究者が実習や研究のため利用しています。一般市民にも開放しており、年間約4,000~7,000人がハイキングやガイドツアーを楽しんでいます。芦生研究林は一般社団法人「芦生もりびと協会」と協定を結び、協会に所属する団体によるガイドツアーを許可し、一般市民へ芦生研究林の森の貴重さや森里海連環学の普及啓発に努めています。「芦生もりびと協会」と連携することで、森の保全と持続的な社会の創出を目指しています。
■京大フィールド研が進める森里海連環学
京大フィールド研では、2003年より森里海連環学 (もりさとうみれんかんがく) を提唱し、森から海までの物質や人を含む生物のつながりを明らかにする研究に取り組んでいます。森里海連環学は気仙沼の牡蠣漁師である畠山重篤氏が唱える「森は海の恋人」に科学的な裏付けができないか、という発想から生まれ発展してきました。森里海連環学はSDGsの基盤といえるものでもあり、森と海はつながっていること、そして、人はそのつながりの中で在り方を考えなければならないことを再認識し、自然と人との持続可能な共存原理を考えていくものです。
提唱者である田中克名誉教授は著書の中で、森里海連環学とは「大学内の学問だけでなく、住民が人と人、人と自然、自然と自然のつながりのたいせつさに思いをはせ、人々が「力を合わせてみんなで生きていこうよ」という意識を共有しながら住民が進化させていく学問である」と紹介されており、京大フィールド研では、森里海連環学から生まれた研究成果を元に、社会の様々な主体とともに森里海のつながりやその分断について学び、持続可能な社会に向けた様々な活動を生み出す、社会連携活動を推進しています。
■KDDIの地域共創
KDDIは、SDGsの達成に向け、事業を通じて解決する社会課題の一つとして、地域共創に取り組んでいます。ICTを活かしたビジネスの知見や、人財育成、ファンドを軸にした地域企業のサポートに加え、教育における地域格差を解消するための環境整備もあわせて推進していきます。地域や企業とのパートナーシップにより、課題を継続的に解決することで「地域の明日」を創っていきます。
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