ニュースリリース

漁村の脱炭素・収益向上に向けブルーカーボン自動計測システム構築に向けた取り組みを開始

~海洋DXを推進、安定した漁獲や生産に寄与~

独立行政法人国立高等専門学校機構 鳥羽商船高等専門学校
国立大学法人三重大学
三重県水産研究所
三重県鳥羽市
KDDI株式会社
株式会社KDDI総合研究所

独立行政法人国立高等専門学校機構 鳥羽商船高等専門学校 (所在地: 三重県鳥羽市、校長: 和泉 充)、国立大学法人三重大学 大学院生物資源学研究科 (所在地: 三重県津市、研究科長: 松村 直人)、三重県 水産研究所 (所在地: 三重県志摩市、所長: 藤田 弘一)、鳥羽市 (所在地: 三重県鳥羽市、市長: 中村 欣一郎)、KDDI株式会社 (本社: 東京都千代田区、代表取締役社長: 髙橋 誠)、株式会社KDDI総合研究所 (本社: 埼玉県ふじみ野市、代表取締役所長: 中村 元) は、水産業におけるカーボンニュートラルの実現と収益モデルの構築を目的に、機械学習を活用したブルーカーボン自動計測システム構築に向けた取り組み (以下 本取り組み) を開始しました。本取り組みは、2022年11月30日から最長2025年3月末まで実施し、期間中にブルーカーボン自動計測システムの運用開始を目指しています。
また、2023年2月から3月にかけて、本取り組みの一環として水中カメラセンサーデバイスの試作機を使った藻場の水中画像の取得に成功しました。
なお本取り組みは、2022年10月12日、国立研究開発法人情報通信研究機構が実施する「データ利活用等のデジタル化の推進による社会課題・地域課題解決のための実証型研究開発 (課題番号226)」において、6者で取り組む「ブルーカーボン貯留量の自動計測システムの開発による漁村の脱炭素・収益向上に向けた取り組み」が採択されたことにより実施しています (該当項目へジャンプします注1)。

本取り組み概要

<本取り組み概要>

本取り組みでは、漁船に取り付けた水中カメラセンサーデバイスで撮影した画像や位置情報などをブルーカーボン自動計測システムへ集約します。機械学習を用いて藻の種類を識別、繁茂位置と体積を算出することで地域のブルーカーボンの貯留量を自動計測します。ブルーカーボンを定量化して取引可能な形態にした「Jブルークレジット」(該当項目へジャンプします注2) などを藻場保全活動の活性化・持続性の確保に活用し、都市部の企業との連携を生み出し、漁村の創生につなげていきます。

6者は、三重県内の5GやIoTなどを活用した水産業のデジタルトランスフォーメーション「海洋DX」の積極的な展開を目指し、2021年3月に連携協定を締結しました (該当項目へジャンプします注3)。今後も、産学官の連携による最新技術の情報共有や共同研究、フィールド試験などを通じて海洋DXを推進し、安定した漁獲や生産に向けた仕組みの構築を進めていきます。

詳細は別紙をご参照ください。


<別紙>

■背景と課題

  • 近年、気候変動などにより海洋環境は大きく変化しています。漁業においては、水産資源や藻場の減少に伴い、漁獲量の減少が続いています。
  • 持続可能で収益性の高い水産業の構築を目指すため、漁場環境の保全・回復を急ぐ必要があり、特に水産資源をはじめとする海洋生物の生産基盤となる藻場の回復が鍵となります。
  • ブルーカーボンは、海草や海藻、植物プランクトンなど、海洋生物の作用によって海中に取り込まれる炭素です (該当項目へジャンプします注4)。現在、二酸化炭素 (CO2) 吸収源の新たな選択肢として注目されており、海草や海藻などにCO2を吸収させるブルーカーボンをクレジットとした取引が行われています。
  • 一方、ブルーカーボンの定量的な測定には、藻場の種類や分布面積の把握のための調査が不可欠なものの、進んでいないのが現状です。クレジット認証を得るには、人手を介して海草や海藻などをどれほど増やしたかの実績報告が必要となります。

■本取り組みの内容

1. 船舶搭載型カメラによる藻場データ収集

  • 低コストで保守性が高く、船の側面への脱着が可能な水中カメラセンサーデバイスを開発し、三重県沿岸において日常的に操業している複数の漁船に取り付けます。
  • 藻場の水中画像データと海域の位置情報を、観測海域ごとにデータベースへ自動で蓄積します。

2. 炭素貯留量の自動計測システムの構築

  • 1で取得した画像データから、藻類の種判別と藻場の3Dモデル作成を行い、藻場における各種藻類の繁殖量の把握と炭素貯留量の算出を行います。3Dモデルにすることで各種藻類の繁殖量を体積で算出することができます。
  • 各種藻類の種類による面積当たりの炭素貯留量と体積データ、藻場の大きさをもとに総炭素貯留量を算出します。
  • 藻場に関する情報や海中環境情報を管理できる地図アプリと連動する藻場観測システムを開発し、現場への導入を行います。

3. 藻場の創出、保全体制の構築

  • 三重県沿岸を対象とした藻場の生長や衰退、造成活動による炭素貯留量の変化を監視する自動計測システムの運用を行います。
  • 水中カメラセンサ―デバイスと自動計測システムを用いて、海藻の種類や分布面積の調査を行うとともに、炭素貯留量の把握を行います。
  • 自治体や漁協と協力して、「Jブルークレジット」への登録と更新により、藻場の創出、保全体制の構築のための新たな活動資金を確保することで地域創生につなげます。

pdfファイルをダウンロードします研究概要図 (536KB)

■水中カメラセンサーデバイスの試作機による藻場の水中画像の取得

水中カメラセンサーデバイスを使用し、2023年2月から3月に三重県鳥羽市石鏡町で撮影しました。

<水中カメラセンサーデバイスの試作機>

動画が視聴できない方は新規ウィンドウが開きますこちら

<試作機を使った藻場 (三重県鳥羽市石鏡町) の水中映像>

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<藻類種判別映像>
(45枚のデータセットで構築した識別モデルと115枚で構築した識別モデルの比較
赤がサガラメ・カジメ、緑がガラモ、黄が紅藻、紫が天草)

<藻類種判別映像からのキャプチャ画像>

■6者の役割

鳥羽商船高等専門学校
  • 船に搭載するカメラ映像収集装置の設計と製作
  • 画像データから藻の種類識別
  • 藻場データの地図アプリでの表示
三重大学
  • 観測海域の炭素貯留量の算出
三重県水産研究所
  • 海藻の炭素貯留量の把握
三重県鳥羽市
  • 海域ごとの藻場の画像データの収集
KDDI
  • 「Jブルークレジット」への登録と調整
KDDI総合研究所
  • 画像データから藻の体積算出

(参考)

■鳥羽商船高専の取り組み

三重県における主要な産業のひとつは水産業であり、鳥羽商船高専ではICT・IoTなどを利用した既存産業の活性化に向けた新たな戦略を進めています。特に技術開発人材の供給基盤を地域に置き、地域と連携し、地域の発展に貢献します。そのために正規科目として地域連携PBL (課題解決学習) を1年生から配置し、課題解決力や創造力を育み、地域貢献や新産業で活躍できる人材を育成しています。

■三重大学大学院生物資源学研究科の取り組み

三重大学大学院生物資源学研究科は、水産資源の減少や生産効率の低さなど水産業が抱える課題の解決に貢献するため、IoTやAIなどの先端技術を漁業生産現場に導入し、水産業のスマート化を推進するための研究開発を行うとともに、それら先端技術を活用するための人材育成を進めています。

■三重県水産研究所の取り組み

三重県水産研究所は、本県水産業の競争力強化の加速化を図り、人口減少下においても、力強い水産業の実現を図るため、AI・ICTなどの先端技術やデータを駆使し、生産性を飛躍的に向上させる水産業のスマート化推進に関わる技術開発研究に取り組んでいます。

■三重県鳥羽市の取り組み

鳥羽市は、全国でも稀な公設水産研究所を持ち、藻類養殖種苗の生産と試験研究や、地域漁業者への生産普及活動、海洋環境調査などに取り組んでいます。今後は、「鳥羽の海」が持つ強みを最大限に発揮し、持続可能な地域水産業の振興につなげていくため、大学や研究機関をはじめとしたさまざまな主体と連携し、鳥羽市水産研究所を地域密着型水産振興拠点として発展させます。

■KDDIの取り組み

KDDIは、全国各地の自治体や地域企業、地元学術機関などと連携しながら、ICTやIoTを活用した、漁業をはじめとする第一次産業の作業効率化や事業開発の取り組みを進めています。2017年以降、福井県小浜市や、長崎県五島市、徳島県海陽町における水産現場でのIoT実証事業など、通信技術を基盤としたスマート水産業の確立に向けての取り組みを、地域や対象を広げて推進中です。

■KDDI総合研究所の取り組み

KDDI総合研究所は、水産業に関連するDX化の取り組みとして、スマートブイや水上ドローンなどの開発、これらを活用した海洋環境データの収集と分析の研究を進めています。2016年以降、宮城県東松島市、三重県尾鷲市や同県熊野市にて漁獲量予測の実証実験を積み重ねてきました。さらに2022年には鳥羽市で藻場の調査を行いました。今後も海洋DX化に向け貢献していきます。

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