～従来方式と比較し1.6倍の速度、プライバシーに配慮したデータ利活用の拡大に貢献～
KDDI株式会社
株式会社KDDI総合研究所
KDDIとKDDI総合研究所は、次世代暗号である完全準同型暗号（
注1）を使い、暗号化されたデータをそのまま高速に分析する手法の開発に成功しました。完全準同型暗号は、データを暗号化したまま分析できるため安全性が非常に高いことが特徴で、医療データなどの機密性の高いデータを暗号化したままさまざまな操作ができることが期待されています。両社は、完全準同型暗号の2030年代半ばでの実用化を目指して、プライバシーを守りながら企業間のデータ利活用を推進し、お客さまに新たな価値を提供できるサービスの実現に向けた取り組みを進めていきます。
完全準同型暗号では、暗号化を行う際に安全性を確保するため乱数をノイズとして加えますが、暗号化したデータを使って演算を行うと、各データのノイズが累積し処理できなくなります。そのため、ブートストラップ処理が必要になりますが、従来の完全準同型暗号では、ブートストラップ処理に要する計算量が大きく、演算時間がかかることが課題でした。今回、両社で開発した新たな手法では、ブートストラップ処理を1.6倍高速化することに成功しました。また、完全準同型暗号の基本演算処理の高速化にも取り組んでおり、標準的な手法と比較し、加算において100倍、乗算において60倍の高速化を達成しています（注2）。
＜完全準同型暗号の利用イメージ＞
なお、今回の成果は情報セキュリティー分野の最難関国際学会Asiacrypt 2023（注3）に採択（論文採録率26.9％、Asiacrypt 2022実績）され、2023年12月4日から12月8日に開催される同学会で発表しました（注4）。
■背景
DX化の進展によりデータを収集・分析し、お客さまへフィードバックすることで、これまでにない付加価値を提供できるようになりました。データは複数の事業者や機関にまたがって存在しているため、組み合わせて利活用するにはプライバシーや情報の漏えいに配慮する必要があります。そのため次世代の暗号技術として、暗号化したままさまざまなデータ分析や検索が可能な完全準同型暗号が注目されています。
■今回の成果
両社は、最も基本的な完全準同型暗号のブートストラップ処理を高速化するため、従来では考慮されていなかった代数学的性質を利用する手法を考案し、従来方式と比較し1.6倍の速度でデータを処理することに成功しました。また、論理演算とブートストラップ処理を同時に実行可能な「プログラム可能ブートストラップ処理」の具体的な構成方法を示し、同時処理で生じる演算処理遅延の低減手法も考案しました。
これらの成果は、完全準同型暗号の実用化を加速させるものであり、両社は完全準同型暗号で暗号化された演算処理の高速化に向け、研究開発を引き続き進めていきます。
■今後の取り組み
完全準同型暗号が実用化されることで、プライバシーや情報漏洩を懸念することなく多種多様なデータが分析できるようになります。今後、複数機関をまたぐさまざまな種類のヘルスケア情報を活用した新薬開発や、リアルタイムの位置情報に合わせたコンシェルジュサービスなど、新しい価値やサービスの創出を目指します。
KDDIとKDDI総合研究所は、プライバシーを守りながらデータ利活用を推進することで、安全安心で豊かな社会の実現に向け取り組んでいきます。
- 注1）
- 一般に「準同型暗号」は暗号文同士の加算もしくは乗算が可能な暗号方式を指しますが、「完全準同型暗号」は暗号文同士の加算と乗算の両方を何度でも実行可能な暗号方式を指します。
- 注2）
- Shintaro Narisada, Hiroki Okada, Kazuhide Fukushima, Shinsaku Kiyomoto and Takashi Nishide, "GPU Acceleration of High-Precision Homomorphic Computation Utilizing Redundant Representation." (At WAHC 2023)
- 注4）
- Hiroki Okada, Rachel Player, Simon Pohmann. "Homomorphic polynomial evaluation using Galois structure and applications to BFV bootstrapping." (To appear at Asiacrypt 2023)
Asiacrypt 2023- ※この記事に記載された情報は、掲載日時点のものです。
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